幻 その八

 明石の中宮は宮中に帰り、三の宮を光源氏の淋しい折の慰めとして側に残していった。



「お祖母さまがおっしゃったから」



 と西の対の庭前の紅梅を特に大切に世話しているのを光源氏はとてもいじらしく見る。


 二月になると梅の木々の中には花盛りになるのもまだ蕾のままなのも、みな梢が美しくかすんでいるなかで、あの紫の上の形見の紅梅に鶯が訪れては華やかに鳴き始めたので、光源氏は部屋から出て見る。




 植ゑて見し花のあるじもなき宿に

 知らず顔にて来ゐる鶯




 と口ずさみながら、梅の木のあたりを徘徊するのだった。

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