御法 その十五
風が荒涼と寂しく身に染みて吹き始めた夕暮に紫の上は明石の中宮と一緒に前庭の草花を見ようとして脇息に寄りかかっていた。光源氏がたまたまそこにきて、それを見て、
「今日は本当によく起きていますね。明石の中宮とご一緒だとご気分も最高に晴れ晴れなさるようですね」
と言う。わずかこれほどの小康にさえもさもうれしそうな光源氏の顔色を見るにつけても、紫の上は切なくていよいよ自分の死んでいくときにはどんなに光源氏が心を取り乱して嘆くのかと思うだけでもたまらなく悲しいので、
おくと見る程ぞはかなきともすれば
風に乱るる萩の上露
と言う。本当に風の萩の枝が吹きたわめられたり、もとに帰ったりして花の露が今にも零れ落ちそうに見えた。自分の命をそのはかない露にたとえるとは折も折から光源氏はたまらなく悲しくて庭前の風情を見て、
ややもせば消えをあらそふ露の世に
後れ先だつほど経ずもがな
と言い、涙もぬぐいきれないほど泣いた。明石の中宮は、
秋風にしばしとまらぬ露の世を
たれか草葉のうへとのみ見む
と互いに詠み交わす。その器量も姿も誰もまたとはないほど美しくてうっとりするほどだった。
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