夕霧 その一一三

 なにゆゑか世に数ならぬ身ひとつを

 憂しとも思ひかなしとも聞く




 とだけ心に浮かんだままを書いて、終わりの挨拶まではとても書きなれないふうにして、上包みに包み、外に出した。


 少将は女房たちを相手に話したり、



「時々お伺いしているのにこんな御簾の外に通されては頼りないような気がいたしますが、これからはご縁ができたように思われますので、始終お訪ね申し上げましょう。そのうち長年の忠勤の結果が報われて御簾の内にも入れていただけるようになるかもしれませんね」



 などそれとなく意味ありげに言い、退出するのだった。

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