夕霧 その六十
大和の守は葬儀の後始末をして、
「こんな淋しいところではとてもお住みになれないでしょう。ここではお気持ちのまぎれる時もございますまい」
などと言うが、女二の宮はせめて峰に立ち上った御息所の火葬の煙をさえ、近いところで思い出し、亡き母を偲びしながらこの山里に住んでいた生涯を終わりたいと思うのだった。御喪の勤行にこちらに籠っている僧たちは寝殿の東面やそちらの廊下や召使たち用の建物などに仮の間仕切りをして、ひっそり泊まっている。寝殿の西廂の部屋の飾りをとり外し、服喪の部屋に模様替えして、女二の宮はそこに暮らしている。日々の明け暮れさえはっきりお分かりにならないほど悲しみにくれ、茫然としたまま日数が過ぎてはや九月になった。
山から吹きおろすとても激しい風に木々の葉もすっかり落とされた梢はあらわになり、あたりのすべてがいかにももの悲しい季節です。そうした晩秋の空の淋しい風情にも襲われて女二の宮は涙の乾く間もなく嘆き、母君の後を慕っているのに、自分の命さえ思うにまかせず生きていることよと、つくづくこの世を厭わしく情けなく思いになる。側の女房たちも何かにつけてもの悲しく、途方に暮れているのだった。
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