夕霧 その五十八

「何かとお恨み申し上げているようにも聞こえましたでしょうか。今日は格別取り乱しておりまして気も動転しておりますので、とんでもない間違いを申しあげたかもしれません。それでは女二の宮のこんなにもはげしい愁嘆もいつまでも続くわけでもございますまいから、少しお気持ちが静まられた頃にまたお訪ねいただきまして、お話も申し上げたりお聞かせいただいたりいたしましょう」



 と言って、悲しみに取り乱し我を忘れたありさまなので、夕霧は言いたいことも咽喉につかえて、



「本当に私も闇の中をさまよっているような気持ちです。それでもやはり何とかしてもう一度女二の宮のお気持ちをお慰めくださって、一言のお返事でもいただけないものでしょうか」



 などと未練げに言って、帰りかねてうろうろしているのも、身分柄軽々しくも見えます。さすがにあたりにはまだ人々の出入りも多く、ざわついているので、ともかく帰るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る