夕霧 その五十五

 生前からそうしてほしいと遺言があったので、その通り今夜ただちに葬儀を執り行うことになり、甥の大和の守が万事取り仕切ってその指揮を執った。


 亡きがらだけでもせめてもうしばらく一緒にと女二の宮は名残惜しむが、それも甲斐ないことなので誰もが急いで準備に取り掛かり、縁起の悪い取り込み中に夕霧が来た。



「今日ではなくては後に日柄が悪いから」



 など人の手前は言いつくろい、どんなに女二の宮が悲嘆にくれて身も世もなく泣き沈んでいることかと察し、



「そんなに急いでご自身がお越しになるべきではございません」



 と側の女房たちが止めたのを聞き入れならず、強いて出かけるのだった。


 道のりまで遠く感じられて、ようやく山荘に着くと、門の内はいかにも物寂しさが満ち満ちている。不吉な感じで喪の幕を張り巡らして、葬儀の式場は隠して例の西面の宮の部屋の部屋に夕霧を通す。大和の守が挨拶を出て恐縮しながら泣く泣く礼を言う。夕霧は妻戸の前の簀子の高欄に背をもたせかけて座り、女房を呼び寄せるが、いるかぎり女房たちは皆、悲しみのあまり気も動転していてまったく分別を失っている。夕霧がこうしてわざわざ弔問したので、少しは気持ちも落ち着いてきて、小少将の君が前に来たのだった。

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