夕霧 その三十七
今となっては人知れず幾分弱気にもなって、心の内では夕霧の来ることを心待ちにしているのに、今頃手紙が届くようでは今夜はもう来ないだろうと考えるにつけ、胸騒ぎがして、
「さあ、その手紙にはやはり返事をなさいませ。そのままではいけません。いったん立った人の噂をよいように言いなおしてくれる人ほどめったにいるものではありません。たとえ自分一人が潔白だとお思いでも、それを信じてくれる人はきっと少ないでしょう。今となっては素直にお手紙のやり取りもなさってやはりこれまでと同様にお付き合いなさるのがよろしいでしょう。お返事をなさらないのは先様に対して馴れ馴れしい甘えた態度ととられるでしょう」
と言い、御息所は手紙を手許に取り寄せる。小少将の君は当惑したが、渡すしかなかった。
「心外なほどのあまりにも冷たいお心をはっきり拝見してしまいましたので、かえって今では遠慮がなくなって私の恋心はいっそうつのって一途になってしまいそうです」
せくからに浅さぞ見えむ山川の
流れての名をつつみ果てずは
といろいろ書き連ねてあるが、御息所は途中までしか読まない。この手紙も曖昧な書きようで、忌々しいほどいい気なもので、大切な今夜訪れて来ないとはなんという仕打ちかと腹立つのだった。
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