横笛 その十

 秋の夕暮の何となくもの寂しいころに夕霧は一条の女二の宮はどうしていることかと思って訪ねた。


 女二の宮はゆっくりしてしめやかにお琴などを弾いていたところなのだろう。突然の来訪に楽器を奥へ片付ける暇もなくて、そのまま南の廂の間に通した。今までそこの端近にいた女房たちが奥へにじりはいる気配がはっきり感じられて衣擦れの音もあたり一帯に漂う薫物のかぐわしい匂いも奥ゆかしい折柄だ。


 いつものように母御息所が会って亡き人の思い出話などを互いにする。夕霧は自分の邸では明け暮れ人の出入りが多くて何かと騒がしく小さな子供たちが大勢集まってあわただしくしているのに慣れているので、こちらの邸はひっそりしていかにももの寂しい監視がした。どことなく荒れているようにも感じるが、さすがに上品で高貴な人の邸らしくいかにも高雅な暮らしぶりだ。前庭の花々が<虫の音のしげき野辺とも>の古歌のように咲き乱れている、夕映えの景色を見渡しているのだった。

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