横笛 その九

 月日が経つにつれてこの若君が可愛らしく空恐ろしいほど美しく成長するので、まったくあの忌まわしい一件はすっかり忘れてしまいそうだ。



「こういう子の生まれてくるという宿縁があって、ああした慮外な事件も起こったのだろう。すべては避けられない前世からの約束事だったのだ」



 と、少し考え直す。


 自身の運命についてもやはり不満なことが多い。たくさんの女君たちを集めている中でも、この女三の宮は何一つ不足に思うところもなく、また女三の宮の人柄も申し分ないはずなのに、こんなふうに思いもかけなかった尼姿でお世話しようとは、と思うにつけてもやはり過ぎ去った日のあの罪が許しがたくて、今もなお口惜しく思う。


 夕霧の大将は柏木が臨終に残した一言を自分の胸一つにおさめてときどき思い出しながらどういう事情だったのかと、光源氏に尋ねたくてならない。その時、どんな反応をするか、顔色も探ってみたいが薄々そうではないかと推量していることもあるので、かえって言い出すのも気が咎める。それでも何かいい機会をとらえてこの件の詳しいいきさつもはっきりさせ、またあの亡き柏木が深く思いつめていた様子も光源氏の耳に入れたいと考え続けているのだった。

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