横笛 その五

 女三の宮はきまり悪そうに返事を書いて使者には青鈍色の綾の袿一襲を与える。


 書き損じの紙が几帳の端からちらと見えるのを光源氏が手に取って見ると筆跡は本当に弱弱しい感じで、




 憂き世にはあらぬところのゆかしくて

 そむく山路に思ひこそ入れ




 とある。



「朱雀院があなたのことをとても心配になっていらっしゃる様子なのに、六条の院ではない『あらぬところ』をお慕いになるなど、本当に私は情けなく、辛くてなりません」



 と言う。


 今ではもう女三の宮はまともに光源氏と顔を合わせようともしない。それはそれは美しく可愛らしい額髪や顔立ちのきれいさがまるで子供のように見えて、たとえようもない可憐なのを見るにつけても、光源氏はなぜこんなふうに尼になどさせてしまったのかと仏罰も蒙りそうな罪悪感を覚えるので、さすがに几帳だけは間に置いているが、あまりひどく退任行儀によそよそしくならない程度にお世話をするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る