柏木 その五十二
亡き柏木は夕霧より五、六歳年長だったが、それでも実に若々しく優雅で愛嬌がこぼれるような人柄だった。夕霧のほうは実にしっかりしていて生真面目で重々しく、男らしい雰囲気です。顔だけは実に若く最高の美しさが格別だ。若い女房たちは喪中の悲しさも少し紛れる気持ちでそんな夕霧を見送る。
夕霧は庭前の桜がとても美しく咲いているのを見て、<今年ばかりは黒染に咲け>という古歌がふっと浮かんでくるが、不吉な連想がされるので遠慮して春毎に花の盛りはあっても、<あひ見むことは命なりけり>という古歌を口ずさむ。また、
時しあれば変らぬ色ににほひけり
片枝枯れにし宿の桜も
とさりげなく吟じて出ると、御息所は早速に、
この春は柳のめにぞ玉はぬく
咲きちる花のゆくへ知らねば
と答える。
この御息所はとても深い風情があるというのでもないのだが、当世風で才気のある人と評判されていた更衣だった。なるほど見た目がよい程度の応対ぶりをすると、夕霧は思うのだった。
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