柏木 その四十八

「この度の大変な不幸をお悔やみ申し上げ、悲しみに耐えない気持ちは身内の方々以上なのですが、血縁でもない私への立場では世間のきまり通りにと遠慮されまして、思うようにお慰め申し上げるすべもなくて、世間並みのお悔やみになってしまいました。臨終の折にも私に遺言されたことがございましたので、決して一通りの気持ちではおられません。誰がいつ死ぬかわからない無常の世の中ですが、しばらくでもこの私が生き残っております間は気の付く限りのお世話はさせていただいて、浅くはない私の心をお目にかけたいと思っています。この頃は宮中の神事などが多くて私事の悲しみにかまけて心もふさぎ込んでじっと引きこもっておりますのも、ことさらしくて遠慮されますので一応出仕してはおりますがこちらへお伺いしましても神事に出仕しますので、死を忌んで立ちながらもあわただしいご挨拶ではかえって物足りないと思いまして、長らくご無沙汰してしまいました。父君の大臣などのただならぬご愁傷の様子を見聞きいたしますにつけても、親の子を思う心の闇は当然ながらこのような夫婦の間柄はまた格別でございます。亡き人がさぞかしこちらの宮様に深く思いを残されたに違いないお心のほどをお察し申し上げますと、悲しみはまったく尽きぬ思いがいたします」



 と言って、あふれる涙を幾度もおし拭って鼻をかんでいるのだった。

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