若菜 その三〇七

 老人の上達部たちは皆感動して落涙している。式部卿の宮も孫のことを思って鼻の頭が赤くなるほどすすり泣き、感涙にむせんでいた。


 主人の光源氏は、



「年をとるにつれてだらしなく酔い泣きするのが止められないものだ。柏井がこんな私に注目してにやにや笑っておられるのがまったく恥ずかしい。しかし、あなたの若さだって今しばらくのことですよ。決して逆さまに流れてゆかないのが年月というもの。老いはどうしたって人の逃れられない運命なのです」



 と言って柏木を見据えてじっと見る。他の人々よりはずっと生真面目に固くなって沈み込んでいて、真実、気分もひどく悪いため、せっかくのすばらしい舞も目にも入らない気分でいる人を掴まえて、光源氏はわざと名指しして、酔ったふりをしながらこんなふうに言ったのだ。冗談のようにも聞こえるのだが、柏木はいよいよ胸が張り裂けそうに動悸が激しくなり、盃が廻ってきても頭が痛くてたまらないので、飲むふりだけして取り繕っている。それを光源氏に見咎められて、無理に盃を持たせながら、度々執拗にすすめるので、柏木は引っ込みがつかなくなって困惑しきっている様子はありきたりの人とは格段に違っていて、さすがに優雅に見えるのだった。

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