若菜 その二八七

「髭黒の右大臣の北の方の玉鬘の君はこれという後見人もなく幼い時からなんとも頼りない暮らしの中で国々を流浪してお育ちになったけれど、才気走ってよく気付き、私も表向きは親のように振舞ってきたが、けしからぬ恋心も起こらないわけではなかった。それをあの人はかどを立てずさりげなく受け流した。あの髭黒の右大臣がああした無分別な女房と心を合わせて忍び込んできたときにも自分は寄せ付けなかったということをはっきり世間にわかるようにしてそのあとで改めてわざわざ親に許された結婚という形をとり、自分の責任ではないことにしてすませてしまった。こんなことはすべて今から思えばいかにあの人の才知にすぐれていたかということの証だ。もともと宿縁の深い二人だったからこそ、こうして長く夫婦として連れ添うことははじめはどんな事情だったにせよ、どっちみち結果は同じようなものだろうけれど、多少は軽蔑もされただろうが、実に見事に身を処したものだ」



 と思い出すのだった。

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