若菜 その二七一

 女三の宮は手紙を見ると、いっそうどきどきして胸がつぶれるような思いでいる。そこへ光源氏が入ってきたので、とっさに手紙を手際よく隠すことができなくてあわてて茵の下にさしこんだ。


 その夜のうちに二条の院に帰ろうとして、光源氏は女三の宮に暇乞いの挨拶をする。



「こちらは病気もたいしたことなさそうですし、まだあちらは本当にどうなるかわからない不安な容態でしたから、それを見捨てたように思われるのも今更可哀そうなのです。私のことをいろいろ悪く言う人が会ったとしても、決して気になさらないように。そのうちきっと私の本心はおわかりいただけることでしょう」



 と話す。


 いつもは何となく子供っぽい冗談など言って無邪気に打ち解けるのに、今日はひどくしんみり沈みこんでまともに目を合わせようともしないので、光源氏はやはり自分と紫の上の仲を嫉妬して拗ねているのだろうと思うのだった。

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