若菜 その二六八

 池はとても涼しそうに蓮の花が一面に咲いていて、葉は鮮やかに青々と広がって、その上に露がきらきらと玉のように光っているのを光源氏が、



「あれをごらんなさい。蓮がさも自分だけ涼しそうではありませんか」



 と言うと、紫の上は起き上がってそれを見る。そんなことは最近まったくないので、



「こうしてここまでよくなられたお姿を拝見できるのは夢のような気がしますよ。あまり重態で悲しさに私までもがもう死ぬかと思われるときが幾度もあったのですから」



 と目に一杯涙を浮かべていると、紫の上は自分の胸が一杯になり、




 消えとまるほどやは経べきたまさかに

 蓮の露のかかるばかりを




 と言う。




 契りおかむこの世ならでも蓮葉に

 玉ゐる露の心へだつな

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