若菜 その二五二
柏木は女三の宮にもましてなまじああした逢瀬を遂げたばかりにかえって恋しさがつのるばかりで寝ても覚めても明けても暮れても恋いわびて悩み続けている。
賀茂の祭の日などは先を争って見物に出かける公達が連れ立って来て誘いだそうとあれこれ言ってそそのかすが、病気のふりを装って悩み沈んで床についているのだった。
北の方の女二の宮を表向きは丁重に敬いかしずいているように扱って実はほとんど打ち解けて睦まじくはせず、自分の部屋に引きこもってただ何をするでもなく心細そうにふさぎ込んでいる。そんなとき、女童の持っている葵に目を止めて、
くやしくぞつみをかしける葵草
神のゆるせるかざしならぬに
と思うにつけてもかえって恋しさがつのるばかりだ。外から伝わってくる賑やかな車の行き来の音などもよそごとのように聞いて、誰のせいでもない自ら招いた所在ない一日を耐えがたく長く感じているのだった。
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