若菜 その二四九
おきてゆく空も知られぬ明けぐれに
いづくの露のかかる袖なり
と袖を引き出して悲しそうに訴えるので、柏木はもう出ていってしまうのだと女三の宮はほっとして、
明けぐれの空に憂き身は消えななむ
夢なりけりと見てもやむべく
とはかなそうに言う声の若々しく美しいのを、聞きも終わらず帰ってきた柏木の魂は古歌にあるようにこの身を離れて女三の宮の袖の中にとどまっているような気がした。
柏木はそこか女二の宮の邸には行かず、父大臣の邸に行った。
寝床で横になってみたものの眠ることはできず、あの猫の夢が世間で言うように確かに妊娠の印としてほんとうにその通りになって女三の宮が妊娠するようなことはとうていありえないものとまで考えると、夢の中の猫の様子がとても恋しく思い出される。
「それにしても何という大それた過ちを犯してしまったものだ。これでもう堂々と世の中に生きていくこともできなくなってしまった」
と恐ろしいやら恥ずかしいやらで身もすくむ思いがして、それからは出歩きこともしないのだった。
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