若菜 その二四七
夜もようやく明けていくようだが、帰っていこうとしても行方もなく柏木は思いを遂げて、かえって切なさに身を苛まされるようだった。
「本当にどうしたらいいのでしょう。ひどく私をお憎みでいらっしゃるようですから、二度とこうしてお会いすることも難しいでしょうに。せめてただ一言、何かおっしゃってください」
とあれこれせがんで困らせるにつけても、女三の宮はただうるさく情けなくて一向に一言も口にしないので、柏木は、
「こうまで口をきいてくださらないのはなんだか最後には気味が悪くさえなってきました。こんな冷酷な扱いはほかにまたとはないことでしょう」
と、真実あんまりひどいと思い、
「それならもう私は死んだ方がいいのですね。ええ、もう、命を捨てるほかありません。今まではあなたに未練があったればこそこうして生きていたのです。でももう今宵限りの命と覚悟を決めると悲しくてなりません。本の少しでも心を開いてくださるお情けがお示しいただけますなら、そのお情けの代償にこの命を捨てもいたしましょう」
と言って女三の宮を抱き上げたまま部屋を出る。いったいこれからどうなるのだろうと女三の宮は途方に暮れて茫然とするのだった。
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