若菜 その二二九

 昔あれほど憎らしがって嫌っていた人を紫の上が今ではこうも寛大に許して会ったりするのも明石の女御のためを心から思う真心のあまりだと考えるので、光源氏は紫の上の気持ちを本当に珍しく感じ、



「あなたこそ何と言っても心の奥ではすっきりしているというわけでもないのに、相手や事柄次第でとても上手に二通りの心遣いを使い分けていますね。私はたくさんの女の人と付き合ってきたけれど、あなたのような心映えの人は二人といなかった。ただ機嫌の悪さがすぐ顔に出されるけれど」



 と言って笑っている。そのあとで、



「女三の宮にたいそう上手に琴をお弾きになったお祝いを申し上げましょう」



 と言って、その日の夕暮に寝殿のほうに出かけた。女三の宮は自分に対して気がねをする人があろうなどとはまったく思わず、いたって無邪気な様子でひたすら琴の練習に木を入れている。光源氏は、



「今日はもう私にお暇をくださってあなたも休息なさい。何の師匠でも満足させてくださってこそ弟子というものですよ。本当に辛い苦労をした日頃の甲斐があって、もうすっかり安心できるまで上達なさいましたね」



 と言い、琴をおしやって二人で寝るのだった。

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