若菜 その二〇八

 こういう人々の中で明石の君は威圧されてしまいそうだが、ところが一向にそうでもなく、身ごなしなどはなかなかしゃれていて品位があり、心の底を知りたくなるような風情でそこはかとなく高雅な感じがしてあでやかに見える。柳襲の織物の細長に萌黄らしい小袿を着て、羅の裳の軽やかなのをさりげなくつけて同席の人々にことさらへりくだったふうにしているが、その様子が明石の女御の思うせいか心配りも奥ゆかしくて侮れない感じがする。


 青地の高麗錦で縁取りした敷物に遠慮して端ぎわに座り、琵琶を置いてほんの少しだけ軽く弾きかける。しなやかに掻き鳴らした撥の扱いようは音を聞く前からたとえようもなくゆかしいやさしい感じがして五月を待つ花橘の花も実もついた枝を折り取ったような清楚な薫りが匂うように思われるのだった。

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