若菜 その二〇七


 明石の女御は同じように優美な姿なのだが、今少し優艶さが加わって物腰気配が奥ゆかしく風情のある様子に見える。よく咲き誇った藤の花が初夏になって周りに美しさを競う花もない、朝ぼらけの感じでいる。とは言え、妊娠のためにふっくらとして気分もすぐれないので、お琴を遠く押しやり、脇息にもたれている。小柄な人でなよなよと脇息に寄り掛かっているが、脇息が並の大きさなので無理に背伸びしているように見える。特に小さな脇息を作ってあげたいと思うほどいかにもとても可憐だ。紅梅襲の着物に髪がはらはらとかかっているのが美しくて、火影に浮かぶ姿が世に二人となく可愛らしく見える。


 紫の上は葡萄染だろうか、濃い色の小袿に薄蘇芳の細長を着て、髪が裾にたまるほど豊かでゆるやかに流れていて、体つきなどはほどよい大きさで容姿のすべてに申し分なく、あたりいっぱいに匂い映えるような美しさだ。花ならば桜の花盛りに例えられるが、その桜よりもまだ優れているすばらしさはこの上ないのだった。

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