若菜 その二〇四

「それもそうだけれど、女楽の相手もできずに逃げてしまったと噂されては、それこそみっともない話だろう」



 と光源氏は笑う。夕霧は調子を合わせて終わってからちょっと興味のそそる程度に調子合せの曲だけをさらりと弾いて、お琴を御簾の中に返した。あの小さい孫たちがとても可愛らしい直衣姿で吹き合わせる笛の音色がまだ幼い響きながら先々の上達が思いやられていかにも楽しみに聞こえる。


 それぞれの楽器の調子合せがすっかり整っていよいよ合奏が始まった。誰もが優劣のない中にも明石の君の琵琶は一際名手めいていて、神々しいような古風な撥さばきが澄み切った音色を美しく響かせる。


 紫の上の和琴は夕霧も特に耳をそばだてていると、柔らかななつかしい愛嬌のある爪音で絃を掻き返す音色がはっとするほど新鮮で、その上この頃世間で評判の名人たちの大層ぶって仰々しく弾きたてる曲や調子にひけをとらず、華やかな感じで和琴にもこうした弾き方があったのかと夕霧の大将は聞いて思わず感嘆する。大変な稽古のあとがありありと音色に現れていてみごとなのに、光源氏もほっと安堵してまったくまたとないすばらしい人だと思うのだった。

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