若菜 その一九四

「この年月、折のあるごとに女三の宮に琴を教えてきたので、女三の宮の琴の腕前は確かに上手になっていらっしゃるけれど、まだ朱雀院の耳に聞きごたえのあるような味わいの深い技量にはとても及ばない。それなのに女三の宮が何の心づもりもなくて参上なさったついでに朱雀院がぜひにと御所望あそばしたら、さぞ決まりの悪い目にあうだろう」



 と可哀そうに思い、最近になって熱を入れて琴の稽古をつける。


 珍しい秘曲の手だけを二つ三つと面白い大曲などの四季に応じて響きを変え、気候の寒暖によって調子を整えるといった貴重な秘曲の秘術のすべてを特に念を入れて教える。女三の宮は頼りないところもあるようだが、次第に会得するにつれてとても上達した。



「昼は人の出入りが多くて、絃をただの一回でも揺すったり押したりするその間もやはり気持ちが落ち着かないので、毎夜あたりが静かになった頃に極意をしっかり教えて差し上げましょう」



 ということになり、紫の上にもその頃はわけを話してお暇をいただいて明けても暮れても教えるのだった。

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