若菜 その一九三

 昔も朱雀院は音楽の趣味が深かったので、舞人や楽人などを念入りに選び出し、その道の名手ばかりを揃えさせる。


 髭黒の右大臣の子息たち二人、夕霧の子息は藤の典侍との間に生まれた子も加えて三人、まだ小さい子たちだが、七歳より上の子たちは皆この際童殿上にさせる。そのほか蛍兵部の宮の子息などすべてのしかるべき宮家の子たちや名家の若君たちを皆選び出す。若い殿上人たちも容貌の優れた舞姿の特に引き立ちそうな人たちばかりを選んで、数々の舞の準備をさせるのだった。


 大変な盛儀になりそうな御賀のことなので、誰も皆懸命に練習に励んでいる。音楽や舞のそれぞれの道の師匠たちや名人とか言われる人たちはこの節引っ張りだこの忙しさだ。


 女三の宮は前々から琴のお琴を習っていた。まだ十四、五のとても若い時に、父の朱雀院と別れたので、朱雀院も上達のほどを心配して、



「こちらへお越しになる機会に、女三の宮の琴の音をぜひ聞きたいものだ。いくらなんでも琴くらいは上手に弾けるようにおなりだろう」



 と陰でひそかに噂したのが帝も耳にして、



「まったく何といってもやはり見間違えるように上達していることだろう。朱雀院の御前で女三の宮がお手並みの秘術を尽くされるときには、私も聞きに伺いたいものだ」



 などと言うのを、光源氏は人伝に聞くのだった。

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