若菜 その一六四

 柏木自身も光源氏に会うと、何となく恐ろしいまでにまぶしくて目があげられない。



「こんな邪恋を抱いてよいものか。ちょっとしたことでも人に後ろ指をさされるような不届きな振舞いはすまいと思っているのに、まして身の程もわきまえず、こんな空恐ろしいことを」



 と思い悩むのだった。そのあげくの果てには、



「せめてあの時の猫でもいいから手に入れたいものだ。この切ない悩みを猫に語ることはできないまでも、独り寝の閨の淋しさを慰めるためにでも手なずけてみよう」



 と思いつくと、何やら理性も失って物狂おしくなり、どうしたら猫を盗み出せようかと考える。しかしそれさえ容易いことではない。


 そこで妹君の弘徽殿の女御のところに参上して、話などして気を紛らわそうとする。弘徽殿の女御はとても慎み深く、こちらが気恥ずかしくなるような他人行儀な扱いをするのが常で、じきじきに姿を見せるようなことはない。こうした兄妹の仲でも打ち解けた風にはしないのが習慣なのに、思えばあの日、ゆくりなく女三の宮の姿を見たことは、思いがけない不思議なことだったのだと思いつくのだった。

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