若菜 その一六三

 次第に日が暮れていくにつれ、春も今日が終わりと見える霞の風景もあわただしく、吹き乱れる夕風に、落花の舞う桜の下蔭はなおさら立ち去りにくく、誰もがひどく酔っていた。



「風流な賭物が女君たちからたくさん出ていて、それを見ればそれぞれの女君たちの趣味のほどもうかがえるのに、柳の葉を百発百中で射止めたという楚の国の名人そっちのけの腕前の舎人たちばかりが、我が物顔に射とってしまうのでは、面白みがありませんね。多少は大様な手並みの射手たちを競争させたいものだ」



 ということで、大将たちをはじめ、上達部たちが庭へ下る。ところが柏木だけがほかの人々の中でひとり目立って憂鬱そうな表情で物思いに沈んでいる。うすうすわけを知っている夕霧はそれを見咎めて、



「やはり様子がとてもおかしい、厄介なことになりそうな恋愛沙汰のようだ」



 と自分まで悩みを背負い込んだような気がする。この二人はとても仲がいい。そうした親友同士という中でも、とりわけ気心の通じ合った親しい仲なので、ちょっとしたことでも相手が心配で、物思いがちに悩んでいるようなことがあると、まるで自分のことのように心配するのだった。

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