若菜 その一四七

 寝殿の階段に面して咲いている桜の木陰に人々が寄って、花のことも忘れて蹴鞠に熱中しているのを光源氏も蛍兵部の宮も隅の高欄に出て見物する。


 日頃の精進の手練れの技も披露され、蹴る回数が次第に多くなるにつれ、高官の人々も熱中しすぎて走り回り、冠の額際が少し弛んでいる。夕霧も身分を考えればいつにない羽目の外しようだと思うが、見た目には誰よりも一段と若々しく美しく見える。桜襲の直衣のやや柔らかくなったのに指貫の裾のほうが少し膨らんでいるのを心持ち引き上げている。それでいて軽々しくは見えない。なんとなく爽やかな気取らないその姿に、雪のように桜の花がふりかかる。夕霧はそれをちらと見上げてたわんだ枝を少し押し折り、階段の中段辺りに腰を掛けるのだった。

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