若菜 その一四二

 こうした様子を夕霧も見て、本当に理想的な女君はめったに世の中にはいないものだ。それにつけても紫の上の心がけといい、態度といい、この長い年月の間にもいまだに何かと人のうわさの口の端にのぼるようなことは一切なく、物静かなことを第一として落ち着いていて、心がやさしく、人を蔑ろにせず、自身も大切にして、気品高く、奥ゆかしく振舞っているのはさすがだと感心する。


 五年前の野分の夕暮、垣間見た紫の上の面影も忘れることができなくてしきりに思い出す。自分の北の方、雲居の雁をも深く愛しているのだが、この人は打てば響くような魅力のある才覚などはない。夕霧は今ではもう平穏な結婚生活に胡坐をかき、毎日見慣れている雲居の雁にも関心が薄らぎ、やはりこのように様々な人が集まっている六条の院の女君たちがとりどりに立派で魅力的でいるのに惹かれて、内心ひそかに関心を捨てきれないのだった。まして女三の宮は身分を考えてもこの上なく格別の高貴な人なのに、光源氏は寵愛に格別の扱いをする様子でもなく、世間の手前ばかりを飾っているだけだと本当の事情が呑み込めてくると、別に大それた気持ちを抱いているわけではないのに、もしかして顔を拝する機会がありはしないかと慕わしく思っているのだった。

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