若菜 その一三九

 光源氏は、



「あの人は別にあなたのために気を遣っているわけではないでしょう。ただ自分が明石の女御の日常に終始付き添ってお世話できないのが気掛かりであなたにその代わりをしてもらっているのでしょう。それもまたあなたが親ぶった顔で一人取り仕切ったりしないので、万事穏やかに円満に運ぶのです。私もまったく心配がなくて喜んでいます。ほんのちょっとしたことでもわけのわからない非常識な人間がいると、まわりの者まで迷惑してひどい目にあうものです。あなた方は二人ともそんな欠点がなく、直すところがないのでこちらも気が楽です」



 との言葉を聞くにつけても、明石の君は、



「ああよかった。よくぞいままでへりくだって生きてきたものだ」



 と思い続けるのだった。

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