若菜 その一一〇
しかし、実際はまだそれほどの年ではなく、六十五、六ほどだった。尼姿がとてもこざっぱりしていて上品な様子で、目元が涙で艶やかに濡れて光り、瞼を泣き腫らしている顔つきなどが変で、どうやら昔を思い出している風情なので、明石の君ははっとして、
「大昔の間違いだらけのお話でもいたしましたのでしょうか。尼君はこの世のこととも思われないようなことをよく覚え違いして、ありもしなかったことを取り混ぜて、怪しげな昔話もあれこれお話申し上げたのではないでしょうか。昔のことは夢のような心地がいたします」
と苦笑しながら明石の女御を見ると、とてもあでやかに美しくて、いつもよりもひどく沈み込んでいて、物思わしそうな様子に見える。自分の産んだ子とも思われないほど気高くても経いなく思うのに、尼君があれこれと不憫なことを聞かせて、悩んでいるのではないだろうか、今ではもうこれ以上はないという后の位を極めた時に話し、知らせようと思っていたのに、もともとほんとうのことを聞いても、卑下するような身分ではないが、今聞くとなると可哀そうに、さぞ気落ちしていることだろうと思うのだった。
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