若菜 その四十九

 何の道でも名人の子とはいっても、こうまではとても手筋を受け継ぐことはできないものなのにと、人々はその技量にすっかり魅了されて感にたえない表情だ。それぞれの調子に従って奏法の決まっている曲や、唐から伝わって譜にして決まっている曲は、難曲でもかえって習得する方法がはっきりして学びやすい。ところが和琴は即興に任せて、ただ無造作に爪弾く際にもあらゆる楽器の音色が一つの調子に調整されていくのは、たとえようもなく美しく、不思議なほど絶妙な響きに聞こえる。


 太政大臣は、琴の緒もごく緩く張って、調子を非常に低く落として余韻をたっぷりに響き渡らせて掻き鳴らした。柏木のほうはとても華やかな高い調子で、艶めかしく優しく甘やかな感じがする。それを聞いてまったくこれほどまで上手だとは思わなかったのに、と親王たちも驚くのだった。

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