若菜 その四十八

 朱雀院の病気がまだ全快にならないので慎んで楽人たちは呼ばなかった。笛などの楽器類のことは、太政大臣が用意する。



「世の中に、この御賀以上に、善美を尽くした催しは滅多にあるものではないでしょう」



 と言って、前々からすばらしい音色の名器をすべて用意していたので、物静かに音楽の遊びがある。皆それぞれに演奏しているなかにも、和琴はこの太政大臣が第一に秘蔵している逸品だった。こうした和琴の名手が、心を込めて日頃弾き込んだ名器は、またとないすばらしい音を出すので、他の人は弾くのも遠慮していた。


 光源氏が柏木の衛門の督に演奏するようにしきりに勧めるので、固辞していた柏木もついに弾くことになった。なるほどその演奏は実にすばらしく、父の太政大臣にも一向にひけをとらないと思われるほど、面白く弾くのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る