若菜 その三十八

「夕霧の中納言は実務の方面ではたしかによくお仕え申し上げるでしょうが、何分まだ万事未熟で、分別も足りません。恐縮ながら私が真心を込めてお世話を申し上げましたら、朱雀院のお側にいらっしゃった時と変わらないようにお思いなさるかと存じます。ただ私の命も先が短く、最後まで御面倒が見られないのではないかという懸念だけが残り、心苦しく存じられて」



 と、ついに引き受けたのだった。


 やがて夜になったので、主人の朱雀院側も客側の上達部たちも皆、朱雀院の御前で饗応にあずかった。ごちそうは精進料理で格式張らず、風流に作らせてある。


 朱雀院の御前には塗り物ではなく、浅香という香木作りの脚付きの膳の上に、仏式の食器が載っている。今までとは違った器でさし上げるのを見て、人々は涙を拭いた。しみじみ心を打つことも数々あったが、くだくだしいので省く。


 夜が更けてから光源氏は帰っていった。禄の品々をそれぞれ応分に下した。別当の藤大納言もお供して送った。


 朱雀院は今日の雪にいっそう風邪がひどくなり、気分もすぐれず悩ましく感じたが、女三の宮の件を光源氏に依頼して決めたので、すっかり安心したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る