「朱雀院の御在世中に、とにもかくにも女三の宮の結婚が決まりましたら、私も定めて御奉公がしやすかろうと思います。いくら高貴な御身分と申しましても、女というものはとかく身の上が不安定なものですから、何かにつけて心配な上にこのようにたくさんの姫宮がいらっしゃるなかで、朱雀院がとりわけこの女三の宮だけをお可愛がりになられるにつけても、他の方々に妬まれるのは当然ですし、何とかしてほんの些細な傷も女三の宮にはおつけしたくないのです」

　と相談を持ち掛ける。左中弁は、

「その剣はどうしたらいいものだろう。光源氏様は不思議なほど心変わりをなさらないお方で、かりにも一度契りを結ばれた女君は、お気に召した方は当然、またさほど深くお心を惹かれなかった方でも、それぞれにお引き取りになってお邸内に大勢住まわせていらっしゃいますが、中でも一番大切にお思いの方は、申すまでもなくただ紫の上お一人なのです。全て紫の上お一人の御寵愛が片寄って、その御威光に押されて、張り合いのない淋しいお暮しをしていらっしゃる女君たちが多いようです。もし、こちらの女三の宮がご縁があってお話のように光源氏様に御降嫁あそばすようなことにでもなれば、どんなに御寵愛が深い紫の上と申しましても、女三の宮と肩を並べて対抗なさるようなことは、とてもありえないと思われます。しかし、やはりそれでもどうだろうかと案じられる点がなきにしもあらずです。とは言え、光源氏様が、

『この現世での栄耀栄華は末世にしては過分なほどで、不足に思うことは何もないのだが、女の問題では人に非難されるようなもともあり、自分としても不如意なこともあった』

　と常々内輪だけの気のおけない打ち解けた話の折にお洩らしになるようです。確かに私どもが拝見してもおっしゃる通りです。それぞれの御縁で光源氏様のお世話を受けていられるようなお方は、どなたにしろ不相応な低い身分の方はいらっしゃらないが、どなたもせいぜい臣下のご出身で、光源氏様の御身分にふさわしい地位のあるお方はいらっしゃいましょうか。そこへ、同じことなら女三の宮が御降嫁なさいましたら、どんなにふさわしいご夫婦におなりでしょう」

　と、打ち割った話をしたので、乳母はまたことのついでに朱雀院に言うのだった。