藤裏葉 その四十三

 太政大臣も、



「あの時は、同じ青海波を光源氏と一緒に舞ったものだが、今、自分も太政大臣として人より抜きんでた身分になったけれど、やはりこの人は特別なこの上ない身分だったのだ」



 と悟らずにはいられない。時雨が時を心得たように、今降り始めた。太政大臣は、




 紫の雲にまがへる菊の花

 濁りなき世の星かとぞ見る




「<時こそありけれ菊の花>の古歌のように、益々お栄えあそばして」



 と言う。


 夕風が濃い色や薄い色の様々な紅葉を吹き落として庭に敷いていく。それは錦を敷いた渡り廊下に見間違いそうだ。その庭に器量も姿も可愛らしい、すべて名門の童たちが青と赤の白橡の袍や、蘇芳、葡萄染の下襲などを、いつものように着付けて、髪は例の角髪に結って、額に天冠をつけただけの扮装で、短い曲をほんの少しだけ舞いながら、紅葉の蔭に入って行くところなど、実際日の暮れるのも惜しいほどに思われた。楽所なども大げさな演奏はしないのだった。

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