梅枝 その十九
光源氏は、
「万事につけて昔に比べて次第に劣ってきて浅薄になっていく末世だけれど、ただ仮名だけは現代のほうがこの上もなく上手になってきました。昔の書は筆法には適っているようだけれど、のびのびとした自由な精神があまり出ていなくて、どれも似ていて個性的でなくなりました。巧妙でうま味があるという書風は近年になってから初めて表現できる人々が出てきました。私が熱心に仮名の手習いに身を入れていたころ、特に難のない手本をたくさん集めたものです。その中に秋好む中宮の母君六条の御息所が何気なくさらさらと走り書きなさった一行くらいのさりげないお手紙をいただいて、たぐいない見事なお筆跡だと感心したものです。そんなことからあのお方への想いが深まった末に、ついにはあらぬ浮き名をお立てすることにもなったのです。六条の御息所はそれを深く怨んでいらっしゃいましたが、私はそれほどには薄情なつもりはなかったのです。こうして秋好む中宮の御後見をさせていただいているのを、六条の御息所は思慮深い方でしたから今では草葉の陰からでも見直してくださることでしょう。秋好む中宮のお筆跡は繊細で布瀬宇賀おありだけれど、ちょっと才気が足りないと言えるでしょうね」
と、紫の上にひそひそと話すのだった。
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