梅枝 その十

 冬の御方、明石の君も、季節ごとにふさわしい薫物が決まっているのに、春のこの季節に決まり通りに冬の薫物を合わせて、ひけをとるのもつまらないと思って工夫する。薫衣香の調合法の秀でているのは、前の朱雀院の秘法を今の朱雀院が引き継いで合わせ香の名人の源公忠朝臣が特に吟味して作った「百歩の方」というすばらしいものがある。明石の君はそれを思いついて、世にもまれな優美な香を調合した。


 兵部卿の宮はその明石の君の趣向がすぐれていると褒め、誰にでも花を持たせた判定をする。


 光源氏は、



「八方美人の悪い判者のようですね」



 とからかうのだった。

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