真木柱 その五十四

 玉鬘も思いもかけない方向になびいてしまった塩焼く煙のように、心外な髭黒の大将との結婚を、つくづく情けなく思う。ただひとり髭黒の大将だけは大切な宝物を盗みとってきたように思って、うれしくてたまらず、悦に入って、これでようやく気持ちも落ち着いた。


 あの時、帝が玉鬘の部屋に入ったことを嫉妬して、ひどく怨みがましく言うのも、玉鬘は気に入らないし、いかにも下品なような気がして、夫婦の仲はあくまでよそよそしい態度をとり、ますます機嫌の悪い様子だった。


 あの式部卿の宮家も、あれほど強いことを言ったものの、今ではひどく困っている。髭黒の大将はあれ以来まったく式部卿の宮家を訪れない。思いが叶って北の方にした玉鬘の機嫌とりに明け暮れていそいそと過ごしているのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る