真木柱 その五十三

 髭黒の大将は今夜このまま玉鬘を自分の邸に引き取るつもりだったが、前もってお願いしたのでは許しが出そうもないので、その日になっていきなり、



「私は急にひどい風邪をひいて病状が重くなりましたので、気楽な自邸で静養しようと思いますが、その間、夫婦が離れていてはとても気掛かりなものですから」



 と、おだやかに言い訳を作り、そのまま玉鬘をさっさと邸に引き取ったのだった。


 父内大臣は突然のことなのでこうした儀式もしない引き上げ方は略儀すぎでどうかと思ったが、強いてその程度のことに文句をつけて邪魔をするのも髭黒の大将が気を悪くするだけだと考えたので、



「どうともよろしいように。もともと私の自由にはならない人のことですから」



 と返事をする。


 光源氏はまったく突然のことで不本意に思ったが、どうなるものでもなかった。

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