真木柱 その三十八

「それにしても、これまでの長い年月、異常で奇矯な振舞いの多いあの人の病気を、大目に見てきた私の気持ちをよくわかっていらっしゃらなかったのだな。まったく気ままな夫なら、とても今まで連れ添っていられなかっただろう。まあいいさ、あの人自身は、もうどうしようもない病人と見えるから、どうなったところで同じことだ。それにしても幼い子供たちを、いったいどうなさるつもりなのやら」



 と、嘆息して、あの真木柱を見ると、筆跡は子供らしいが、歌に詠まれた姫君の気持ちがしみじみ可哀そうで、姫君が恋しくてたまらないので、道々涙をおし拭いながら式部卿の宮の邸を訪れた。ところが北の方は会うはずもない。



「なに、髭黒の大将がただ時勢におもねる気持ちは今に始まったことではないのだ。ここ数年、あの玉鬘にうつつを抜かして浮かれているという噂を聞いてからだって、ずいぶん長いことになるのに、今更何時ともわからぬ改心の日などをあてにして待てるものか。これから先、いっそう気でも狂ったような情けない姿ばかりをさらすことになるだろう」



 と、式部卿の宮が北の方に意見するのも、もっともなことだった。

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