真木柱 その十六
こまやかに整ってはなやかな美しさはないが、父宮に似て、しっとりと美しい顔立ちをしているのに、一向におしゃれをしないので、華やかで若々しい風情など、もうまったくどこにもない。髭黒の大将は、
「父宮のことをどうしてないがしろに申し上げたりするものですか。とんでもない。そんな人聞きの悪いことをおっしゃらないでください」
となだめて、
「あの通っているところは、それはもうまばゆいばかりの立派なお邸で、私のような生真面目一方の野暮な人間が出入りするのも、あれこれ人目に立つことだろうと遠慮されるので、気楽になるよう、玉鬘をこちらに引き取ろうと思ったのです。光源氏の太政大臣の、ああした世にまたとない御声望は、今更言うまでもなく、気が引けるほどご立派で、万事に行き届いていらっしゃる六条の院に、もし、こちらのみっともない内輪もめの噂など伝わったりすれば、実に不都合千万です。光源氏の大臣にも畏れ多くて申しわけが立たないことになるでしょう。どうぞ何とか穏やかに、移ってくる人とお二人仲よくお付き合いしてください。もし、あなたが父宮のお邸に行ってしまわれても、決してあなたを忘れるようなことはありません。どうなったところで、今更私の愛情の薄らぐようなことはないはずですが、里へお帰りになれば、あなたは世間のもの笑いになりことでしょう、私も軽率だとそしられるでしょう。やはり、長年の夫婦の約束を守って、このままお互いに助け合っていこうと思ってください」
と、なだめながら話すのだった。
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