真木柱 その八

 情愛のこまやかな話になって、光源氏は側の脇息に寄り掛かり、几帳の中を少し覗きながら話をする。玉鬘がとても美しく面痩せているような様子を見飽きず、前より弱弱しく可憐さも加わって見えるにつけても、こんな女を他の男に手放してしまったとは、あまりにもひどい気まぐれだったと、口惜しくてならない。




 おりたちて汲みは見ねどもわたり川

 人の瀬とはた契らざりしを




「こんなことは思ってもみなかったことでした」



 と鼻をかんで涙を紛らわせている様子も、やさしくしみじみとした情趣がある。玉鬘は顔を隠して、




 みつせ川わたらぬさきにいかでなほ

 涙の水脈の泡と消えなむ




 とつぶやくのだった。

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