真木柱 その六

 玉鬘は、快活で明るく、いつも陽気にしている性分だが、今ではそれを抑えて、すっかり思いつめてふさぎ込んでいる。髭黒の大将とこんなことになったのは、自分から進んでのことではないと、誰の目にもはっきりしていることなのだが、光源氏がどう思っているかとか、蛍兵部卿の宮の気持ちが思いやり深く、情愛がこまやかでやさしかったことなどを思い出すにつけても、ただもう恥ずかしく、情けなく感じて、何とも面白くない顔つきをしている。


 人々が玉鬘に同情していた、あの自身に疑いをかけられて困った件では、光源氏も潔白であったことを明らかにしたので、気まぐれな出来心の曲がった恋などは自分でも好まなかったのだと昔からのことも思い出す。紫の上にも、



「あなたも疑っておいででしたね」



 などと言うのだった。


 今さら、障害のある面倒な恋に惹かれがちな自分の性癖が出てもと思いながらも、一時は恋心を抑えかねて苦しかったとき、思い切って我が物にしようかという気持ちになったくらいなのだから、やはり今でも心の底ではきっぱりと断念してはいない。

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