藤袴 その十一

「それでは今度の宮仕えに、あまり乗り気ではないのだね。蛍兵部卿の宮など、女の扱いはいたってお上手な人が、深い恋の思いのたけを見せてお口説きになるので、そちらに心を奪われてしまわれたのだろうか。それならお気の毒なことだ。けれども大原野の行幸のとき、帝をお拝みなさってからは、ほんとうに立派でいらっしゃると思っていられたのだ。若い娘なら、ちらとでも帝のお顔を拝したら、とても宮仕えの話をいやとは思えないだろう。私はそう思ったからこそ、宮仕えの話もこのように進めたのだが」



 と言う。夕霧は、



「それにしても、あの玉鬘のお人柄は、一体どこに落ち着かれるのがふさわしいのでしょう。秋好む中宮が、こんなふうに、お一人抜きんでていらっしゃる上に、また弘徽殿の女御が貴い身分で、格別の君寵をお受けですから、玉鬘の姫君をどんなに帝が愛しくお思いになられても、中宮や弘徽殿の女御と肩を並べるというのは、無理な話でしょう。また蛍兵部卿の宮はとても執心のようですから、女御としての入内はないとしても、尚侍などで宮仕えにお出しになったら、宮は自分の気持ちを無視されたと、気分を損じられはしないでしょうか。父君とは仲のよい御兄弟の間だけに、そんなことになれば大変お気の毒に思われます」



 と、大人びたことを言うのだった。

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