藤袴 その七

 夕霧は、



「人に知られないように包み隠そうとなさるのを、私は辛く思います。懐かしさにとても耐えられないほどの、祖母の形見の喪服なので、それを脱ぎ捨てるのも、私にはほんとうに辛いのに、なぜ隠そうとなさるのでしょう。それにしても、どうしてあなたと、こうした不思議な御縁につながっているのか、それがまた納得のいかないことなのです。この大宮のための喪服を着ていらっしゃらなかったら、とてもあなたとこうした肉親のつながりがあることも信じられなかったでしょう」



 と言うと、



「なにもわからない私には、なおさらのこと、どんな事情でこうなったのか、さっぱり理解できません。でもこういう喪服の色は、不思議に悲しくしみじみといたします」



 と、いつもよりは沈み込んだ表情が、とても可愛らしく美しく感じられるのだった。

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