藤袴 その五
今日の夕霧は、光源氏の使いとして、帝からの仰せ言を伝えに来たのだった。玉鬘は、その返事を鷹揚な中にも実に上手に言う。その様子がそつがなく、こまやかな女らしい情味もあるのを見るにつけても、夕霧はあの野分の翌朝に垣間見た寝起きの玉鬘の顔が忘れられず、あのときは恋しかったのを、道ならぬ恋と思ってきたが、玉鬘は実の姉ではないと事情が分かってから後は、平静でいられない気持ちがつのってくるのだった。
「父光源氏は、玉鬘をとてもあっさりとは宮仕えにはお出しにならないだろう。あれほどすばらしい六条の院の女君たちとの深い間柄がおありなのだから、玉鬘のために必ず何か色めいたことでいざこざが起こってくるに違いない」
と、思うと平静ではいられなく、胸のふさがるような気持ちになるのだった。それでもさりげなく生真面目な顔つきをして、
「他の誰にも聞かせてはいけないと言われております。そのお言葉を申し上げたいのですが、どういたしましょう」
と意味ありげに言うので、側の女房たちも少し退いて、几帳の後ろなどで視線を外しているのだった。
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