行幸 その四十五

 弁の少将は、



「こちらでもあなたがまたとないほどよくお勤めしていられるのを、女御もどうして疎かに思いでしょう。とにかく気持ちを落ち着けなさい。堅い岩の淡雪のように溶かしてしまわれそうなあなたの見幕ですから、きっとそのうち、立派に望みをかなえるときもあるでしょう」



 と、にやにやしながら言う。柏木の中将も、



「天の岩戸を閉ざして、中に籠っていらっしゃるほうが無難でしょう」



 と、言って、その場を立ってしまったので、近江の君はほろほろと泣いて、



「この兄弟の方たちまでが、皆冷たく当たられるのに、ただ女御さまだけがおやさしいので、私はここにお仕えしているのです」



 と言って、その後も実にこまめにいそいそとして、下働きの女房や女童なども嫌がってしないような雑役まで、あちらこちらと身軽く飛び廻って、走り歩きながら、懸命に忙しく勤めているのだった。

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