行幸 その三十八

 光源氏は、



「今夜は、昔のことには一切触れませんので、あなたも何の仔細もご存じないようおふるまいください。事情を知らない人々の目をとりつくろい、やはり普通の作法通りにお願いします」



 と、言う。内大臣は、



「実際、まったくなんと申し上げてよいやら」



 と、言って、光源氏が内大臣に盃をさし上げるときに、



「この上もない親切の恩はお礼の申し上げようもないとは思いながら、今までこのようにお隠しになっておかれたお恨みも、一緒に申し上げないではおられません」



 と言う。




 恨めしや沖つ玉藻をかづくまで

 磯がくれける海人の心よ




 と言って、やはり涙をこらえることができず、うなだれるのだった。

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