行幸 その三十七

 内大臣ははじめはそれほど乗り気ではなかったのに、あまりに思いがけない話を聞いてからは、玉鬘に早く会いたいとずっと心にかかっていたので、その日は早めに六条の院に出かけていった。


 裳着の式の支度など、しきたり以上に目新しいようにしている。いかにも光源氏が格別心を込めて用意した立派な儀式だと、内大臣は見るのだった。もったいないことだと思うものの、何かこの心尽くしを異様なふうに感じるようでもあった。


 その夜の十時ごろ、内大臣を御簾の中に入れた。型通りの儀式の飾りつけはもとより、御簾の座席も、またとなく立派に整えてあり、酒肴をさし上げる。燈火も慣例よりは少し明るくして、顔が見えるように、気を利かせたおもてなしをするのだった。


 内大臣は玉鬘の顔を見たいと思うが、今夜すぐではあまりにも性急なようなので、裳の紐を結ぶ間も、こらえきれないような様子だった。

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